誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


「いいかな」

「は、はい、どうぞ。お1人ですか……?」

「あぁ」


どうして桐ケ谷家の人は、こうも急にお店にやって来るのだろう?
しかも、お付きの人も連れてこないなんて気まずいことこの上ない。
動揺を見せないように笑顔を張り付けた私は、カウンター席の真ん中へ「どうぞ」と誘導しようとした。
しかし、お父さんさんはそれよりも先に1番端っこの席に腰を下ろした。
その姿が遠い記憶の中にある、『ある人』と重なる。

(まさかね……)


「お飲み物は、どうなさいますか?」

「冷やをもらおう」

「少々お待ちください」


軽く会釈をして、グラスをお父さんの前に置く。
それから今日用意してある日本酒の中から1本選び、常温のままグラスに注いだ。

『いい? 百花。冷やというのは常温のことなの』
『え、じゃぁ冷蔵庫で冷やした日本酒は?』
『それは、冷酒。間違えやすいから必ず確認をとってね』

私にそう教えてくれた母は、懐かしむように冷や酒をグラスに注いでいた。
母の恋人だった、”おじさま”の好きな飲み方。
いつもカウンターの端っこに座り、冷や酒を飲みながら優しい眼差しで母を見つめていた――。


「……おじさま?」


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