誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
どうして、と言われても。
シンお兄ちゃんと会っていたのは、7歳の頃で顔なんておぼろげにしか覚えていない。
声だって当然今とは違うし、まさかあんな立派な人が初恋の相手だなんて思うわけないでしょ。
そう言うと、果歩も納得したように頷いた。
「そっかー、でも何か複雑だね」
「どうして?」
「だって、旦那の兄だよ? 身内じゃん。しかも既婚者でしょ? せっかく初恋の相手が見つかったのに、ロマンスにならないじゃん」
「シンお兄ちゃんは、そういうのじゃないってば」
確かに、昔は好きだったけど。
その好きって思いは、憧れに近い。
今はどちらかというと、感謝の気持ちが大きくて、精神的な支えになっている。
そりゃもちろん、見つかって嬉しいって気持ちはあるけど……。
「じゃぁ、気が付いたことも黙っているつもり?」
「うーん、機会があればお礼を言いたいなって思ってるけど」
律さんからお兄さんと仲良くして欲しくないと言われているし、わざわざ連絡を取ってまで会う必要はない、かな。
お兄さんだって、自分から名乗り出てこないということは、内緒にしておきたいのかもしれない。
そんなことを考えながらデザートのケーキを食べていると、テーブルに置いていたスマホが振動した。