誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「人の妻を勝手に誘うのはやめてくれないか」
お兄ちゃんの手元からチケットが消えたかと思ったら、それを破く音がした。
気が付くと、私たちを睨むような顔をした律さんが立っている。
「律さん……」
「何を言ってんだよ律。百花ちゃんは家族だろ。家族を誘って何が悪い?」
「百花の家族は俺であって、兄貴じゃない」
「律、おまえ」
律さんの頑なな態度に、お兄ちゃんが呆れたように首を振る。
この2人、どうしてこんなに仲が悪いのだろう。
というか、律さんの方が一方的にお兄ちゃんを嫌っているように見える。
お兄ちゃんは律さんのことを気にかけているのに、彼がそれを拒んでいる……?
「行くぞ」
「あっ、」
律さんは怒った態度のまま、私の腕を掴み歩き出した。
ロビーとは反対方向へ、役員たちの駐車場がある方向だ。
「律さん、待って」
「……」
「待ってください!」
お兄ちゃんとの間に何があったか知らないけど、感じ悪すぎ。
人にあげたチケットを断りもなく破くなんて最低だし、強引に掴まれている腕も痛い。
第一、会社でこんなことをして社員にどう思われるか……。