誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「離してくれないと、大声で叫びますよ!」
「……」
律さんがやっと手を離してくれたのは、駐車場に入ってからだった。
幸い人気はないが、大声を出すと響くだろう。
変な動きをすれば、ここにずらりと並んでいる高級車のドライブレコーダーに証拠を残せるはず……。
って、証拠を残したところで、傍からみたらただの夫婦喧嘩にしか見えないだろうけど。
「律さん、誤解してますよ。お兄さんを誘ったのは私の方です」
「……は?」
「お兄さんは、私の幼馴染だったんです」
私は律さんに、「シンお兄ちゃん」についての説明をした。
順を追って、できるだけ分かりやすく……。
律さんはそれを黙って聞いていてくれたけど、最後の方になると渋い表情をしていた。
「だから、」
「だから何だ? 大事な幼馴染だから交流を認めろと?」
「そうじゃなくて、誤解しないでくださいって言ってるんです」
「1つ言っておくが、俺は君が誰と交流しようと干渉するつもりはない。元々、そういう契約だ。周囲にバレなければ恋人を作っても構わない」
「それなら……」
「だが、兄貴はダメだ。前にそう言っただろ。あいつには近づくな」