誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
いつからだろう?
確かに初めは、私にとってもただの契約結婚だった。
人生のピンチで、お金がどうしても必要で、律さんが出した条件に乗った。
結婚した後も、あくまで戸籍上の夫婦ってだけで。
お互いにプライベートを干渉しないってルールだったんだけど……。
心配したり、してくれたり。
頼ったり、助けてくれたり。
支えてくれる律さんの存在が、日増しに大きくなって。
「私、母を亡くしてからずっと1人で頑張ってきて……」
「うん」
「でも、もう1人じゃないんだって思えた瞬間かな。その時くらいから多分好きになってた、と思う」
「そっか、良い事じゃん」
果歩が、にこっと笑う。
「百花には、私もいたけどね。1人じゃなくてさ」
「そうだね、ごめん……ありがとう」
「お礼は5つ星ホテルのフレンチでいいよ、ランチじゃなくてディナーね」
「小料理屋『零』のディナーなら、いつでもどうぞ」
「ケチくさいこと言わないでよー、セレブ妻のくせに」
茶目っ気たっぷりの顔で、果歩が言う。
彼女のそういうところ、好きだな。
嫌味がなくて、遠慮もなくて、だけど、気遣い上手で。
するっと、人の懐の中に滑り込む。
私も果歩のように上手く、律さんの心の中を独占できたらいいのに。