Sister Cherry! ~事故った妹は今日も事故る~【シーズン1】
【はじめまして、お兄ちゃん!】
1.プロローグ~妹、事故る~
……――それは昨日のことだった。
目が覚めると、あたしは病院にいた。
薄いカーテンの向こうで、人が慌ただしく動き回っている気配がする。周りからピーピーという規則正しい電子音が、幾つも聞こえる。一番近いのは、あたしの枕元のいっぱいチューブの出てる機械からだ。幸い、どのチューブもあたしの体にはつながってはいないようだった。
頭が痛くて触ってみると、包帯が巻かれていた。
状況から察すると、ここは救急治療室のような場所なんじゃないだろうか。
さっとカーテンを開けて入ってきた看護師さんが、あたしが目を開いているのを見て、瞬時に優しげな笑顔を作った。さすがプロフェッショナルって感じだ。
「気がついた?」
あたしはこくりと頷いて、若いけどもベテラン感のある看護師さんに、おずおずと訊いてみた。
「あの……ここはどこですか?」
そして次の質問は、本当にもう、すごく言うのが恥ずかしかったけど、仕方なくあたしは言葉を続けた。
「あたしは誰ですか……?」
この台詞、本当に言う奴がいるんだなあ……
**********
あたしの名前は、此花桜子……というらしい。
歳は中学二年生。通学中に交通事故に合って救急車で運ばれたのだそうだ。
事故と言っても車に轢かれたわけではなく、自転車で走ってきた高校生が前を歩いていた小学生にぶつかりかけて、咄嗟にかばおうとして引っ掛けられ、転んで頭をぶつけたのだという。偉いな、記憶を失う前のあたし。
気を失ったあたしは病院に運ばれ、幸い大きなケガはしていなかったけど……体はともかく頭は記憶喪失なわけですよ。
修羅場なのは当人よりむしろ、両親だった。待合室にいた“あたしのお母さん”だと紹介された、ちょっとぽっちゃりした女の人は、あたしが自分のことを何も覚えていないと知らされて、かなり取り乱した。
「桜子、お母さんよ、お母さん!」
「あ、はい。初めまして」
“お母さん”は泣き崩れた。娘が記憶喪失になったのだ、泣きもするだろう。あたしの受け答えもヒドい。
あたしの“お父さん”と名乗った、ちょっとシュッとした男性は、顔を覆って涙する奥様の肩を抱き、さすがにしっかりとされていた。
「大丈夫だ、母さん。桜子は事故のショックで少し混乱しているだけだ。すぐに母さんも私のことも思い出すさ」
カッコイイなこのオジサン(これもヒドいな)、と見ていると、オジサンはあたしにも優しく笑い掛けた。
「心配ないよ、桜子」
「はあ、ありがとうございます」
あたしが首をすくめるように頭を下げると、さすがに“お父さん”も何とも言えない顔になったけれど。
**********
頭を打ったということで、あたしは検査のために二日ほど入院することになった。
“お母さん”と“お父さん”が後ろ髪を引かれる様子で帰り、救急室から一般の個室に移されて独り、あたしは自分のことをいろいろ考えた。
記憶喪失ということだけど、いわゆる一般常識だとか、そういうのは全然覚えているようだ。ここは病院で、テレビを見るにはテレビカードがいるとか、そういうのはわかる。学校の勉強とかも大丈夫だと思う……元々が大丈夫だったかどうかは知らんけど。
あたしが忘れたのは、自分自身にまつわることの一切だ。名前も、今までどういう生活をしていたのかも、何も思い出せない。“お母さん”のあの様子には申しわけないけれど、家族のこともきれいさっぱり忘れている。
桜子――……そう呼ばれることに、違和感はないけど、自分の名前だとしっくりくるという感じもなかった。
洗面台の前に立って、鏡を覗いてみた。
頭に痛々しく包帯を巻いた、中学生くらいの女の子がそこにいた。
……カワイイな。自分で言うのもアレだけど、客観的に見て、これはなかなか可愛い顔だぞ。ただ、始めて見る顔だ。あたしが笑顔を作ってみると、鏡の中の子も笑う。けれど、自分の顔だという感じはしない。まるでテレビを見ているみたいだった。
もうひとつ言うと、自分の年齢が13才、中学二年だというのも微妙な感じだ。何となくもう少し上の、成人した大人だったような気がするし、逆にもっと下の小学生くらいだったようにも思える。なんとなく中学二年というその年齢だけは違うような、そんな妙な気分だった。
ぶっちゃけちゃうと、性別が女っていうのも「そうだっけ?」って感じなんだけど、頭の中の一人称は“あたし”だし、それはそうなんだろうな……
ともあれ、両親の悲嘆をよそにあたしは楽観的であった。過去のない女は、未来を怖れはしないのだ!……てか、焦ったり辛かったりする土台が、ない。まだ何もピンときてなくて、処理が追いついていない、というのは本当のところだろう。
今はたぶん、その方がいいんだろうな。
というわけで、あたしは消灯時間になると、ベッドに入ってすぐにスヤスヤ眠ってしまった。幸いなことだった。
もし、明日我が身に起きることがわかっていたら、そりゃあもうモンモンとして一睡もできなかっただろうから。
翌日。一応体は元気な病院生活、超ヒマ。
朝ごはん食べて、看護師さんに検温とかしてもらうと、もう午前中にすることは終了した。テレビ超つまんないし、昨日“お母さん”が買っといてくれたティーン向けファッション誌を捲ってみたけど、うげ、あたしってこういうの読む子だったワケ?
夕方になったら、“お母さん”が来てくれることになっていた。“お母さん”はパートで、働いていて、
「ごめんね、桜子。本当は傍についててあげたいんだけど」
としきりに申し訳ながっていたけど、逆に申し訳ないけど、今は知らない人としか思えない”お母さん“とずっと二人きりの病室は、たぶん地獄説。
それであたしは日がな一日ぼえーっとした顔で、“春の最新着回しオトナアイテム”のページを捲ったり閉じたりして過ごした。
窓の外に見える景色は、どこといって特徴のない住宅地の町並みだった、
(あれのどれかが、あたしの家なのかな……?)
そう思っても、やっぱりあたしにはその風景に見覚えはなかった。
午後は診察で少し時間が潰せて、“お母さん”が来ると言ってた頃になった。
(小用、行っとこうかな……)
“お母さん”が来てからだと、きっとトイレ行くのもひと騒ぎになるだろう。個室の前で待たれたりしたら、たぶん死にたくなる。あたしはベッドから足を下ろし、スリッパを探った。
そしてあたしは、廊下で転びかけ、抱き留めてくれた男の子に、ひと目惚れをした……つまり前書きへとつながるってわけだ。
**********
改めて男の子を見ると、改めてめちゃくちゃカッコ良かった。桜子ちゃん、あなたこーゆー男の子がタイプなのね?!
背は高く、銀縁サークルの眼鏡をかけて、髪は長めでちょっとモッサリした感じではあるのだけど、それが何なんですか? 素材の問題なんですよ、素材の!
確かに垢抜けてないんだけど、彼はいわば有機野菜、畑から抜きたての朝採り土付き大根なワケですよ(大混乱)。
男の子はぼんやり立ち尽くしたまま、自分をガン見してる女の子に、当惑したような顔で頭を掻いている。
そこへ、小走りの靴音が近づいてきた。
「桜子、遼君、どうしたの!」
ちッ、邪魔者……こほん、“お母さん”だった。
あたしはまだ赤いと自覚のある頬をごしごし擦り、
「あの、今廊下で転びかけたのを、この人に助けてもらったんです……」
そう言うと、“お母さん”はちょっと目をむき、それからほっとした顔で、
「そうだったの。まあ、無事で何よりだわ。じゃあ、遼君。709号室だから、桜子に手を貸してあげて頂戴」
「わかった」
当たり前のように男の子に言って、男の子も当たり前のように腕を差し出した。
……りょうくん? もきゅ? この人、“お母さん”のお知り合い?
「つかまれよ」
はいっ、そんなことどーでもいーでーすっ! あたしは男の子の腕に遠慮がちにつかまると、本当の何倍も足が痛いフリして、病室までの数メートルを夢見心地でエスコートして頂いた。
病室のベッドに腰掛けて、足は内股、手はお膝。
退屈を持て余していた時よりほえーっとした顔で、せわしない“お母さん”と、ちょっと離れて所在なげに立っている男の子を交互に見ていた。
(そう言えば、チッコすんの忘れてた……)
お母さんは旅行用バッグに詰めた大荷物を広げている。待って、二日くらいで退院なんだよ?
「で、これが下着でロッカーに入れとくから……」
「ちょおっ///」
待てえーい! おとっ、男の子の前で娘のぱんつを公開とは、てめえどういう料簡だ、こらあっ!
ちらりと男の子の様子を窺うと、ちょっと引いてる感じはありつつ、それほど気にはしていないようにも見える。
「あの、“お母さん”?」
あたしはまた耳が熱っぽいのを感じながら、“お母さん”に声を掛けた。
「その、この人はどなたなんですか……?」
あたしがそう言うと、“お母さん”はハッとして、また顔を曇らせた。
「そう……やっぱり遼君のこともわからないのね」
「りょう君、さん……?」
あたしがきょとんとすると、“お母さん”はため息をひとつ。
「遼君、遼太郎。桜子のお兄ちゃんよ」
お……にいちゃん?
え……えっ? えッ?!
何ですとおおおおおっ?!
このっ、超絶ドストライクのっ、朝採り有機野菜がっ、あた、あたしの“お兄ちゃん”?! 義理の? え、本当の?
あたしが愕然として振り向くと、“お兄ちゃん”は少し困った顔をして頷いた。あたしはベッドに足を上げ、正座になって、ぺこりと頭を下げる。
「は……初めまして、妹の桜子です」
「いや、初めましてではないけどな」
いやあん、声もイケボ……じゃあなくて!
“お兄ちゃん”じゃん……あたしのひと目惚れ、“実の兄”じゃん……
あたしは実の“お兄ちゃん”に顔真っ赤で? 「やぁん、胸板~///」で? 「腕につかまりゅう」で? ぱんつ見られて?
完全にヘンタイです、ありがとうございました。
殺してくれ。もっかい記憶を消してくれ。
あたしは呆然として、お兄ちゃん……遼太郎さんを見つめる。遼太郎さんは困惑しつつも心配そうに、妹を見返している。ああん、やっぱりカッコイイ……じゃなくてぇ……
(な、何てこった……これから、どーなんだ、あたし……?)
此花桜子、どうやら事故った次の日に、とんでもない大事故を起こしてしまったようです――……
目が覚めると、あたしは病院にいた。
薄いカーテンの向こうで、人が慌ただしく動き回っている気配がする。周りからピーピーという規則正しい電子音が、幾つも聞こえる。一番近いのは、あたしの枕元のいっぱいチューブの出てる機械からだ。幸い、どのチューブもあたしの体にはつながってはいないようだった。
頭が痛くて触ってみると、包帯が巻かれていた。
状況から察すると、ここは救急治療室のような場所なんじゃないだろうか。
さっとカーテンを開けて入ってきた看護師さんが、あたしが目を開いているのを見て、瞬時に優しげな笑顔を作った。さすがプロフェッショナルって感じだ。
「気がついた?」
あたしはこくりと頷いて、若いけどもベテラン感のある看護師さんに、おずおずと訊いてみた。
「あの……ここはどこですか?」
そして次の質問は、本当にもう、すごく言うのが恥ずかしかったけど、仕方なくあたしは言葉を続けた。
「あたしは誰ですか……?」
この台詞、本当に言う奴がいるんだなあ……
**********
あたしの名前は、此花桜子……というらしい。
歳は中学二年生。通学中に交通事故に合って救急車で運ばれたのだそうだ。
事故と言っても車に轢かれたわけではなく、自転車で走ってきた高校生が前を歩いていた小学生にぶつかりかけて、咄嗟にかばおうとして引っ掛けられ、転んで頭をぶつけたのだという。偉いな、記憶を失う前のあたし。
気を失ったあたしは病院に運ばれ、幸い大きなケガはしていなかったけど……体はともかく頭は記憶喪失なわけですよ。
修羅場なのは当人よりむしろ、両親だった。待合室にいた“あたしのお母さん”だと紹介された、ちょっとぽっちゃりした女の人は、あたしが自分のことを何も覚えていないと知らされて、かなり取り乱した。
「桜子、お母さんよ、お母さん!」
「あ、はい。初めまして」
“お母さん”は泣き崩れた。娘が記憶喪失になったのだ、泣きもするだろう。あたしの受け答えもヒドい。
あたしの“お父さん”と名乗った、ちょっとシュッとした男性は、顔を覆って涙する奥様の肩を抱き、さすがにしっかりとされていた。
「大丈夫だ、母さん。桜子は事故のショックで少し混乱しているだけだ。すぐに母さんも私のことも思い出すさ」
カッコイイなこのオジサン(これもヒドいな)、と見ていると、オジサンはあたしにも優しく笑い掛けた。
「心配ないよ、桜子」
「はあ、ありがとうございます」
あたしが首をすくめるように頭を下げると、さすがに“お父さん”も何とも言えない顔になったけれど。
**********
頭を打ったということで、あたしは検査のために二日ほど入院することになった。
“お母さん”と“お父さん”が後ろ髪を引かれる様子で帰り、救急室から一般の個室に移されて独り、あたしは自分のことをいろいろ考えた。
記憶喪失ということだけど、いわゆる一般常識だとか、そういうのは全然覚えているようだ。ここは病院で、テレビを見るにはテレビカードがいるとか、そういうのはわかる。学校の勉強とかも大丈夫だと思う……元々が大丈夫だったかどうかは知らんけど。
あたしが忘れたのは、自分自身にまつわることの一切だ。名前も、今までどういう生活をしていたのかも、何も思い出せない。“お母さん”のあの様子には申しわけないけれど、家族のこともきれいさっぱり忘れている。
桜子――……そう呼ばれることに、違和感はないけど、自分の名前だとしっくりくるという感じもなかった。
洗面台の前に立って、鏡を覗いてみた。
頭に痛々しく包帯を巻いた、中学生くらいの女の子がそこにいた。
……カワイイな。自分で言うのもアレだけど、客観的に見て、これはなかなか可愛い顔だぞ。ただ、始めて見る顔だ。あたしが笑顔を作ってみると、鏡の中の子も笑う。けれど、自分の顔だという感じはしない。まるでテレビを見ているみたいだった。
もうひとつ言うと、自分の年齢が13才、中学二年だというのも微妙な感じだ。何となくもう少し上の、成人した大人だったような気がするし、逆にもっと下の小学生くらいだったようにも思える。なんとなく中学二年というその年齢だけは違うような、そんな妙な気分だった。
ぶっちゃけちゃうと、性別が女っていうのも「そうだっけ?」って感じなんだけど、頭の中の一人称は“あたし”だし、それはそうなんだろうな……
ともあれ、両親の悲嘆をよそにあたしは楽観的であった。過去のない女は、未来を怖れはしないのだ!……てか、焦ったり辛かったりする土台が、ない。まだ何もピンときてなくて、処理が追いついていない、というのは本当のところだろう。
今はたぶん、その方がいいんだろうな。
というわけで、あたしは消灯時間になると、ベッドに入ってすぐにスヤスヤ眠ってしまった。幸いなことだった。
もし、明日我が身に起きることがわかっていたら、そりゃあもうモンモンとして一睡もできなかっただろうから。
翌日。一応体は元気な病院生活、超ヒマ。
朝ごはん食べて、看護師さんに検温とかしてもらうと、もう午前中にすることは終了した。テレビ超つまんないし、昨日“お母さん”が買っといてくれたティーン向けファッション誌を捲ってみたけど、うげ、あたしってこういうの読む子だったワケ?
夕方になったら、“お母さん”が来てくれることになっていた。“お母さん”はパートで、働いていて、
「ごめんね、桜子。本当は傍についててあげたいんだけど」
としきりに申し訳ながっていたけど、逆に申し訳ないけど、今は知らない人としか思えない”お母さん“とずっと二人きりの病室は、たぶん地獄説。
それであたしは日がな一日ぼえーっとした顔で、“春の最新着回しオトナアイテム”のページを捲ったり閉じたりして過ごした。
窓の外に見える景色は、どこといって特徴のない住宅地の町並みだった、
(あれのどれかが、あたしの家なのかな……?)
そう思っても、やっぱりあたしにはその風景に見覚えはなかった。
午後は診察で少し時間が潰せて、“お母さん”が来ると言ってた頃になった。
(小用、行っとこうかな……)
“お母さん”が来てからだと、きっとトイレ行くのもひと騒ぎになるだろう。個室の前で待たれたりしたら、たぶん死にたくなる。あたしはベッドから足を下ろし、スリッパを探った。
そしてあたしは、廊下で転びかけ、抱き留めてくれた男の子に、ひと目惚れをした……つまり前書きへとつながるってわけだ。
**********
改めて男の子を見ると、改めてめちゃくちゃカッコ良かった。桜子ちゃん、あなたこーゆー男の子がタイプなのね?!
背は高く、銀縁サークルの眼鏡をかけて、髪は長めでちょっとモッサリした感じではあるのだけど、それが何なんですか? 素材の問題なんですよ、素材の!
確かに垢抜けてないんだけど、彼はいわば有機野菜、畑から抜きたての朝採り土付き大根なワケですよ(大混乱)。
男の子はぼんやり立ち尽くしたまま、自分をガン見してる女の子に、当惑したような顔で頭を掻いている。
そこへ、小走りの靴音が近づいてきた。
「桜子、遼君、どうしたの!」
ちッ、邪魔者……こほん、“お母さん”だった。
あたしはまだ赤いと自覚のある頬をごしごし擦り、
「あの、今廊下で転びかけたのを、この人に助けてもらったんです……」
そう言うと、“お母さん”はちょっと目をむき、それからほっとした顔で、
「そうだったの。まあ、無事で何よりだわ。じゃあ、遼君。709号室だから、桜子に手を貸してあげて頂戴」
「わかった」
当たり前のように男の子に言って、男の子も当たり前のように腕を差し出した。
……りょうくん? もきゅ? この人、“お母さん”のお知り合い?
「つかまれよ」
はいっ、そんなことどーでもいーでーすっ! あたしは男の子の腕に遠慮がちにつかまると、本当の何倍も足が痛いフリして、病室までの数メートルを夢見心地でエスコートして頂いた。
病室のベッドに腰掛けて、足は内股、手はお膝。
退屈を持て余していた時よりほえーっとした顔で、せわしない“お母さん”と、ちょっと離れて所在なげに立っている男の子を交互に見ていた。
(そう言えば、チッコすんの忘れてた……)
お母さんは旅行用バッグに詰めた大荷物を広げている。待って、二日くらいで退院なんだよ?
「で、これが下着でロッカーに入れとくから……」
「ちょおっ///」
待てえーい! おとっ、男の子の前で娘のぱんつを公開とは、てめえどういう料簡だ、こらあっ!
ちらりと男の子の様子を窺うと、ちょっと引いてる感じはありつつ、それほど気にはしていないようにも見える。
「あの、“お母さん”?」
あたしはまた耳が熱っぽいのを感じながら、“お母さん”に声を掛けた。
「その、この人はどなたなんですか……?」
あたしがそう言うと、“お母さん”はハッとして、また顔を曇らせた。
「そう……やっぱり遼君のこともわからないのね」
「りょう君、さん……?」
あたしがきょとんとすると、“お母さん”はため息をひとつ。
「遼君、遼太郎。桜子のお兄ちゃんよ」
お……にいちゃん?
え……えっ? えッ?!
何ですとおおおおおっ?!
このっ、超絶ドストライクのっ、朝採り有機野菜がっ、あた、あたしの“お兄ちゃん”?! 義理の? え、本当の?
あたしが愕然として振り向くと、“お兄ちゃん”は少し困った顔をして頷いた。あたしはベッドに足を上げ、正座になって、ぺこりと頭を下げる。
「は……初めまして、妹の桜子です」
「いや、初めましてではないけどな」
いやあん、声もイケボ……じゃあなくて!
“お兄ちゃん”じゃん……あたしのひと目惚れ、“実の兄”じゃん……
あたしは実の“お兄ちゃん”に顔真っ赤で? 「やぁん、胸板~///」で? 「腕につかまりゅう」で? ぱんつ見られて?
完全にヘンタイです、ありがとうございました。
殺してくれ。もっかい記憶を消してくれ。
あたしは呆然として、お兄ちゃん……遼太郎さんを見つめる。遼太郎さんは困惑しつつも心配そうに、妹を見返している。ああん、やっぱりカッコイイ……じゃなくてぇ……
(な、何てこった……これから、どーなんだ、あたし……?)
此花桜子、どうやら事故った次の日に、とんでもない大事故を起こしてしまったようです――……
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