結婚記念日 ~15年目の小さな試練 番外編(3)~
カナからプロポーズされて煮詰まっていたあの頃、田尻さんに誘ってもらって、休みの日に話を聞いてもらうために田尻さんの家まで行った。
そこで具合を悪くして、田尻さんには救急車を呼ぼうかとまで言わせてしまった。いっぱい心配もかけたし迷惑もかけた。
だから、しーちゃんにすら内緒にしていたのに、田尻さんにだけはお詫びも兼ねてカナとの結婚が決まったと報告しに行ったんだ。
その日は家族が家にいるからと、田尻さんの部屋に通された。
意外にも、と言ったら怒られそうだけど、とても女の子らしいお部屋だった。
「おめでとう!」
満面の笑顔で、何の裏もない笑顔で言われて、何だかとてもくすぐったかった。
だって、高校に入ってすぐの春、田尻さんはカナが大好きで、カナのことを好き過ぎて、わたしにカナから離れるようにと言った。
そんな田尻さんが、今は、わたしとカナの早すぎる結婚を何の含みもなく祝ってくれる。
「ありがとう」
とても自然に、その言葉が飛び出した。
「ね、結婚するって、どんな気持ち?」
田尻さんはからかうように、面白そうな笑顔を浮かべて、わたしを見つめる。
「……え? あの、なんて言うか……まだ、実感がなくて」
そう言うと、田尻さんはクスクス笑った。
「ね、牧村さん、叶太くんとはまだキスまで?」
突然の言葉にわたしの思考は止まる。
「え、もしかして、キスもまだとか、さすがにないよね?」
わたしの反応に、田尻さんが逆に驚いていぶかし気な顔をした。
「だって、結婚するんだよね? 8月に」
「……えっと、あの、……はい」
そう。後一ヶ月半もすると、わたしはカナと結婚する。
キスは付き合い始めてしばらく後から。
大人のキスは、プロポーズを受け入れた日が最初。
そして、その先はきっと結婚した後に……。
まだ何も起こっていないのに、カナが上げた結婚したい理由を思い浮かべてしまい、一瞬で首まで真っ赤になる。
田尻さんは深い話は何もしていないのに、そんな事を想像してしまった自分が恥ずかしくて仕方なかった。