結婚記念日 ~15年目の小さな試練 番外編(3)~
その後、誘われるままに、田尻さんの家の近所にあるという大きな手芸店に行って、幅広のリボンを買った。
ワインレッドのシフォン生地のリボンを……。
そうして、わたしをプレゼント……って、ヤダ、もう!
一瞬で全身が上気するのが分かった。
カナは、そんなわたしをとても嬉しそうに見ていた。そうして、
「今年はないの、リボン?」
と言うと、真新しい腕時計をはめたその手を真っ赤に染まったわたしの頬に当て、わたしの目をじっと覗き込んだ。
ドクンドクンと心臓の鼓動が速くなる。
思わず、胸に手を当ててハアッと息を吐くと、カナはハッと我に返って、慌てて言う。
「ごめん! 冗談だから!」
「……あ、ううん。大丈夫」
一気に心配性に戻ってしまったカナに笑顔を見せる。
「大好き。……愛してるよ、カナ」
そのまま、わたしはカナの胸に額を押し付けた。
次の瞬間、カナにそっと抱きしめられる。
「オレも。愛してるよ、ハル」
カナの背中に腕を回しギュッと力を入れると、カナも少し力を入れて抱きしめてくれた。
少しの間、そのまま抱き合っていた。
あたたかい。
お風呂上がりのカナは昼間より、もっとあたたかかった。
そのぬくもりが不意に離れたと思うと、寂しいと思う間もなく、頬にキス。
「寝ようか?」
「……ん」
カナに促されて、ベッドに横になる。
「今日は、こっちで一緒に寝てもいい?」
「うん」
答えると、カナは嬉しそうにわたしの隣に潜り込む。それから思い出したように、腕時計を外すと手を伸ばしてサイドテーブルに置いた。
もうすぐ結婚記念日は終わる。カナのお誕生日もおしまい。
思っていたよりは動けなかったけど、二人の時間はちゃんと持てた。一緒にお庭でランチも食べられた。
プレゼントも喜んでもらえたし、最高とは言えないまでも、とても良い一日だったと思う。