王子系ドクターと溺愛新婚生活〜家政婦ですが結婚するなんて聞いてない!〜
扉越しの為、くぐもって聞こえるけれど、柔らかい声質だ。
「失礼します」
私はゆっくりと、重い扉を開けた。
音もなく開いた扉の向こうには、大きめのデスクがあり、パソコンといくつかのファイルが置かれていて、壁一面の棚には資料がずらりと並んでいる。
そして、この部屋の持ち主が正面に座っていた。
私を見るなり、その人は立ち上がって近づいてくる。
病院名の刺繍されたスクラブに、白衣を羽織っている彼は、立ち上がると、スラッとした体型がよく分かる。
短く切りそろえられた黒髪は、今の流行に乗って、ふわっとしつつも、しっかりセットされている。触ったら気持ちよさそうだと思ってしまう程に......。
もちろん触らないけれど。
「キミが桜木葵さん?」
「は、い......」
つかつかと近寄ってきて、じーっと見つめられた私は変な返事を返してしまった。
全身を見られて、身体の自由が奪われたような気がする。
一体、何のチェックだろうか。