王子なドクターに恋をしたら
…………

電気も点けず、月の灯りが窓から差し込む部屋の中。
あたしは和泉くんの帰りを待っていた。

淡く光る窓の外を眺め、和泉くんは帰って来てくれるだろうか?と思っては、はあっとため息が溢れた。
今日一日ずっとぼーっとしてた気がする。

ソファーの上で膝を抱え悶々と考え込んではため息をつくを繰り返し何回ため息をついたかわからない。

ずっと考えていた。
東京の人である和泉くんがこの田舎の斗浦部に来たのは偶然で、あたし達は本来出会うはずじゃなかった。

来たとしても夜の公園で出会わなければ今でもあたし達は他人同士。すれ違うこともなく、たとえすれ違っても気にも留めなかっただろう。

なのになぜ出会ってしまったの?
なぜあんなに急激に惹かれ合ったの?
今考えると、不思議でならない。

疑いようもなく和泉くんはあたしのことを愛してくれているのに不安ばかりが胸を巣食う。

上司の黒崎先生や幸田先生はあたしと和泉くんの事を認めてくれない。
きっと和泉くんのお父さんも。
そして相馬先生が今でも和泉くんの事を想っている。

和泉くんの本来居るべき所は東京で、いつかはあたし達離れ離れになってしまうの?

「和泉くん……」

名前を呼ぶだけで胸が張り裂けそう。
こんなに好きで好きでたまらないのにあたしは和泉くんの側に居てはいけないの?
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