王子なドクターに恋をしたら

まあ、そんなことはあったけどあたしの心が揺らぐことなんてない。
なのにこのパワハラ上司はあたしをなにかとけしかけてくるからふつふつと怒りが込み上げる。

「帰って来ない薄情な男より近場で探した方が良くないか?」

「黒崎先生はそんなにあたしと和泉くんを別れさせたいんですか」

バチン!と大きな音を立てて花の茎が吹っ飛んだ。

「い、いや、そんなことはない!ただ心配してるだけだあんたの事を」

あたしの本気の怒りを察してか慌てて手を振る黒崎先生。

「お嬢ちゃんには隠してるようだがあいつは我儘で腹黒でかなり荒んでるぞ?」

まあ、多少はそういうところもあるって何となく気づいているけども、あたしの知ってる和泉くんも知らない和泉くんも全部好きって言える自信はあるんだ。

「それに医者の生活は不規則だし家庭を顧みない。また海外に行くかもしれない。すれ違いばかりで遠恋どころの騒ぎじゃないぞ?一緒にいても苦労するだけだ」

「それは自分の体験談からですか?」

「ああ…まあ…」

黒崎先生はバツイチで毎日すれ違いばかりだった奥様に愛想突かされて出て行かれたって少しだけ身の上話を聞いたことがある。
でも、あたしも同じだと思われるのは心外だ。

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