王子なドクターに恋をしたら
東京に帰ってから、僕はどうにか斗浦部に通えないかと画策した。
幸い叔父に話したら乗り気で親友でもある明里病院の院長とすぐに話は付いて毎月千雪と逢えることになった。
難色を示したのは指導医でもあり上司でもある黒崎さん。

「お前なんでそんな片田舎に行く必要がある!俺の下でまだまだやることは山ほどあるんだぞ?俺が指導医じゃ不満なのか?」

「黒崎さん、自分についていける助手がいなくなるのが困るだけでしょ?もう研修医は卒業したんだから僕を解放してくださいよ」

黒崎さんも腕のいい外科医で手術のスピードに定評がある。
しかし、早すぎて助手が追い付いていないのが難点で、唯一ついていけるのが僕だった。
しかも口が悪く思ったことをズバズバ言うから周りが委縮して余計に黒崎さんの足を引っ張る。
悪循環を引き起こしてる当の本人がこうもふてぶてしいと上司と言えど呆れてしまう。
尊敬する部分も確かにあるけど、僕にとっては厄介な人だった。

「ひと月に5日だけですよ?それに叔父である院長は外科医の権威で学ぶべきことは沢山あるんです。向上心持って通うのに何が悪いんですか?」

「向上心があるって言うならお前論文書け」

「はあ?」

「医術向上のための研究も必要だろ?田舎通いを許す代わりに論文出して医師会に名を上げろ。もちろん俺の手術の助手はお前がするんだからな」

さすがに論文書いて黒崎さんの手術をこなして斗浦部に通うのは骨が折れる。
なんて難問吹っかけるんだ。
出来ないなんて言わせないぞ?と弱みに付け込み不敵に笑う黒崎さんにちょっとだけ殺意が沸いた。
医者としてあるまじき思考はその一瞬だけだ。誓って…
これも千雪と逢うための試練だと思えば頷くしかできない。

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