王子なドクターに恋をしたら


患者は全員助かった。
千雪も気にしてるだろう、みんな無事だと報告してあげなくては。
全ての処置が終わり、ホッとしたところで黒崎さんに呼び止められた。

「高槻、ドイツから催促が来たぞ。早く決めないと他の奴に回すと言ってる」

「…そうですか」

一瞬、息が詰まった。
これが最後通告なんだろう。いい加減決めないといけない。傍で聞いていた伊藤先生が騒ぎ出す。

「やっぱり高槻ドイツに行けよ!すごい事じゃないか、チャンスを無駄にするなよ!」

「そうだ、これを期に何の役にも立たない彼女とは別れて相馬とヨリを戻せよ。相馬はお前の事遠くからでも支えられる」

「なんだって?」

幸田先生の棘のある言い方に僕は目を見開く。
聞けば千雪にも同じようなことを言って罵ったのだと平然と言ってのける幸田先生。
僕は頭に血が上って幸田先生の胸ぐらを掴んで締め上げた。

「何を言ってるんだあんたは!何故千雪を傷つける!」

「お前が目を覚まさないからだろ!あんな田舎娘より相馬の方がよっぽど…!」

最後まで言わせないように絞める力を強め片手の拳を振り上げた。
千雪のあの悲しそうな顔は僕と紘子さんのことを見ただけではなかった。
優しい千雪は僕に問い質すこともなじることもせずに送り出してくれた。
それを思うと幸田先生も自分も許せなくて憤りしかない。

「ちょ~っと待った~!」

黒崎さんに止められ伊藤先生に間に入られ一色触発だった空気は削がれた。
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