王子なドクターに恋をしたら
倒れる!と、なす術なく目を瞑ったあたしの腕がグイッと引っ張られ、温かい温もりがあたしを包んだ。

「…っと、危なかった〜」

頭上でくぐもった声が聞こえる。
あたしは和泉くんに抱き締められていた。
和泉くんに助けられ、倒れるのを免れたあたしはこの状況に混乱してバクバク跳ねる心臓が苦しくて何も出来ずに固まっていた。

もう大丈夫だというのに和泉くんは離れることなくぎゅっとあたしを抱きしめる。
耳が胸に当たりトクトクトクと和泉くんの早い鼓動が聞こえた。

もしかして、今和泉くんはドキドキしてる?
あたしがドキドキさせてる?そう思ったらちょっと嬉しかった。

ゆっくりと離れていく和泉くんを見上げるとちょっとだけ目を見開いてはにかんだ。

「縁石に足を引っ掛けたんだ。危なかったね」

「あ…助けてくれてありがとう。い、和泉くんの心臓ドキドキしてたね」

「…うん、ちょっとびっくりしたから」

ドキドキしたのはびっくりしたからなんだ、ちょっとがっかり。
あたしはかくっと小さく首をもたげた。
そしたらすっと指の背で頬を撫でられた。

「顔、真っ赤だね。大丈夫?」

「へっ?あっうん大丈夫!あたしもびっくりしただけ」

慌てて誤魔化したけど、そう?ってクスクス笑う和泉くんはあたしの気持ちなどお見通しな気がしてきた。

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