王子なドクターに恋をしたら
その日の夜、あたしたちはまた展望台で逢っていた。
月はいつの間にか細い三日月になっていて星空が一面に広がる。
和泉くんは疲れてるのか、今日は言葉少なでじっと星空を見上げていた。

「和泉くん、なんか疲れてる?今日はもう帰った方がいいんじゃない?」

「え?ううん大丈夫だよ。千雪、寒くない?」

「うん、大丈夫…」

大丈夫なんて言いながら和泉くんは浮かない顔をしていて心配になった。
また空を見上げていた和泉くんがあたしの視線に気付いて曖昧な笑顔を向ける。

あたしは思い切って和泉くんの手を取った。
和泉くんに手を握られただけで慌てふためくのに今日のあたしは大胆だった。
思いのほか和泉くんの手が冷たくて思わず両手で包んで温める。
びくっと、びっくりしてたらしい和泉くんのもう片方の手があたしの手を包む。

「千雪の手、あったかいね」

「和泉くんの手は冷たいよ。手術する大事な手なんだから冷やしちゃだめだよ」

「ふふ…ありがとう」

嬉しそうに言う和泉くんの手に引き寄せられあたしの手が和泉くんの唇に当たった。

まっまた、指にキスされた!
さすがにこれは冷静でいられない。
ドクドクと心臓が大きな音を立てあたしはどうしていいかわからなくて情けない顔で和泉くんを見上げた。

「ねえ、千雪」

「な…なに?」

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