王子なドクターに恋をしたら
ちょっと困ったような、でも真剣な顔で和泉くんはあたしを見おろす。

「院長の腰がだいぶ良くなって、そろそろ完全復帰するんだ」

「う…うん」

きた!この話。

まさか明日美に聞いたその日にこの話が来るとは思わなくって一瞬焦った。

でも、覚悟を決めなきゃ。
ちゃんと、和泉くんとは笑ってお別れしたい。
今までありがとうってお礼を言いたい。

「来週、東京に帰ることになったよ。だから…」

「そ、そっか。じゃあ、和泉くんとこうして逢うのももう少しなんだね。さ、寂しいけどお別れだね。和泉くんと逢えてよかった。今までありがっ…」

なんとかお礼を言おうとして上手くしゃべれなくて早口でまくし立ててたら急に手を引っ張られた。
ぽふっとあったかい和泉くんの胸に飛び込む形で抱きしめられて何も言えずに言葉が詰まる。

「僕の気持ちは、今まで態度で示してきたつもりだけど、はっきり言おうか迷ってたんだ。僕は東京に戻ってしまうしホントは連れ去りたいくらいだけど、君はここが好きでずっと住んでいたいと言っていたから連れて行くことなんて出来ない。だけど…このままお別れなんてしたくないんだ」

「和泉くん…」

腕が緩められ顔を上げると真剣な目があたしを射抜く。

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