王子なドクターに恋をしたら
和泉くんが帰った後、やっとあったかくなって桜が咲き、満開のピンクに染まる斗浦部中央公園の写真を和泉くんに送った。

綺麗だね一緒に見たかったね、と電話口で言われて逢いたくなって涙が零れそうになったのは和泉くんに内緒だ。
和泉くんには心配かけないように、困らせないように逢いたい気持ちを隠していつも電話をしてる。
会えなくても触れられなくても声が聞けるから全然平気。
あたしはいつもそう言って虚勢を張っていた。

でもほんとは、逢いたい、触れたい、抱き合いたい。

やっぱり抱き合って別れたのは失敗だったのかな?
和泉くんの熱を知ってしまったあたしは恋しくて寂しくてこのもどかしい思いをどうしていいかわからなくて困り果てていた。

「どんなに素敵な人でもさ、やっぱり近くにいないってのはダメなんだよ、諦めて近場で彼氏探したら?」

「ヤダよ、なんで和泉君以外の彼氏を探さないといけないの?あたしは和泉くんしかいらない」

「ほんとにまあ、お熱上げちゃって。でも彼氏は"いつでも会える"が一番よ?」

「明日美はいいよね。ラブラブの彼氏といつでも会えるもんね。羨ましいわ」

ぶすっと文句を言ってあたしはピーチハイをごくりと飲んだ。
明日美には1年ほど付き合っている2歳年上の彼氏がいる。
製薬会社の人らしく病院にも出入りしてるし家も近くて二人はいつでも会えるのだ。

「あのね、遠距離選んだのはあんた。あたしに文句言うのはお門違いでしょ?」

「…ごめん」

呆れて言い聞かすように言われてしゅんと肩を落とす。
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