王子なドクターに恋をしたら
あたしを呼び止め横を通り過ぎた男の人が振り向いた。

「でも、やっぱり危ないし寒いから早く帰るんだよ?」

そう言って微笑を浮かべてあたしをじっと見た後、その人はカンカンと小気味良いリズムで階段を降りて行った。

「…あ、あれ?」

はっと我に帰ったあたしは急いで柵から下を覗くとあの男の人はスタスタと坂を降りて行った。

それを見届けてドキドキしてる胸を抑える。

あの人…
振り向いた時、月光に照らされた日本人離れした顔、薄い虹彩の瞳、ふわっと笑った笑顔がとても素敵で、あたしの心臓が一瞬止まった。

あの人が明日美が言ってた先生?

きっとそうだ、こんなど田舎にあんな王子様みたいなイケメンいる訳が無い。
颯爽と歩いて行く後ろ姿だけでも都会の洗練された匂いを感じるもの。

「ヤダー惚れちゃったらどーしよー…」

両頬を抑えたら思いの外熱くなっててやんなっちゃう。
都会のお医者がこんな田舎娘を相手にする訳が無い。

というか、もう接点が無い。
というか、病院の看護師達がこぞって王子ゲットを目論んでるはず。
あたしなんかの出る膜はない。

胸よ〜静まれ〜
ときめいてもムダだよ〜
興味持っちゃ‥ダメだかんねえ〜

変な呪文を唱えながら、あたしは景色も見ずに足早に帰ったのだった。
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