王子なドクターに恋をしたら
いやらしい事なんか何にもなくて真剣な表情であたしの心音を聞く和泉くん。
これが和泉くんの医者の顔なんだと思わず見惚れていると、スッと手を抜かれもうしまって良いよと言われてなんだかちょっとだけがっかりしてるあたしがいた。
何を期待してるの!和泉くんは診察中に変なことしないでしょ!とあたしは頭の中で自分を叱る。
目の下を見たり喉を見たりした和泉くんは鞄の中をごそごそと漁りだした。

「あ、ちょうどいいのがあった。これを打てばだいぶ体も楽になると思うよ」

何やら薬瓶とケースを取り出した和泉くんは早速それをセットする。
それを見たあたしは思わず起き上がって頭をくらくらさせた。

「えっ!?そっそれって、注射…うっ!」

「うん、そうだよ。これを打てば熱も下がるからね」

「やっやだ!注射はやだっ!」

「え?まさか千雪、注射が怖いとか?」

クラクラする頭を抑えうんうん頷くと余計に頭がクラクラした。

「でも、急激に熱を出して辛いだろ?飲み薬よりこっちの方が直ぐに効くよ。痛くないから大人しくして」

有無も言わさずあたしを元の場所に戻すとふんふんと鼻を鳴らしながらなんだか和泉くんは楽しそうだ。消毒でかぶれたことない?なんて聞きながらテキパキと用意していく。

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