あの日に置いてきた初恋の話
「今日はなにを読もうかな」
放課後の図書室はいつも貸切状態で、本も選びたい放題だ。
ひとりで早々と家に帰っても暇なだけだし、こうして本を読みながら友達のことを待つのが日課になっている。
私は本棚から、ミヒャエル・エンデの分厚い書籍を手に取った。
読書は元から好きなほうで、とくに現実とファンタジーを織り交ぜたような話が好みでもある。本を抱えていつものカウンターの椅子に座った。
「……あ、」
少し大きめの独り言が漏れてしまった。
それは図書室の窓から見える渡り廊下の真ん中。
寂しそうな瞳をしながら立っている彼――宇津見零士くんがいた。