あの日に置いてきた初恋の話
宇津見くんとはこの春から同じクラスになった。
彼は14歳にしてすでに175センチ以上の身長がある。小顔で体のシルエットも細くてモデルみたいなルックスを持つ宇津見くんはとても友達が多い。
一見すると物静かなイメージがあるけれど、誰とでも気さくに話してくれるし、彼のことを悪く言う人もいない。
それでいて頭も良くて運動神経も抜群。
一年生の時からサッカー部でレギュラー入りをしていて、試合をすれば宇津見くんのファンが大勢集まるほどだった。
そんな彼が前触れもなくサッカー部を辞めてしまったのは夏休み明けの九月のこと。
理由は誰も知らない。
でも宇津見くんがこうして放課後になるとサッカー部の練習風景が見える場所で物思いにふけていることを私は知っている。
今にも渡り廊下の手すりから身を投げてしまいそうな、風に吹かれてどこか遠くへ行ってしまうような気がして、私は図書室を飛び出していた。