あのときのキスを
いつもは虫の声しか聞こえない静かな夜道が、今日は花火を一目見ようという人でごった返していた。

背の小さなあたしは、人波に揉まれながら必死に、目の前の大きな背中を追いかけていた。

「純ちゃん、待って!」


純也が振り返り、立ち止まった。

頭一つ分、人ごみから飛び出すくらい背が高い。

やっと追いついた私は、大きくため息をついた。

「純ちゃん、歩くの早いっ」

「お前が遅いんだよ」

純也はしれっとした視線をあたしに向けた。



そして、ため息をつくと長い腕をあたしのほうに差し出した。

私の手を握って、力強く体を引き寄せられる。


「ちょっ…いたぁい!」


あたしはとっさに叫んだ。

「きゃあきゃあうるさいなぁ」


純也の胸にあたしの体はすっぽり収まった。

耳が…熱い。

「純ちゃんこそ、荒っぽいよ!それじゃあ女の子に嫌われるよ?」

あたしは大声でわざとからかうように言って、心臓がどきどきするのをごまかした。




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