嘘恋愛者

5

 本格的に一人で過ごす時間が増えてきた。しかしその時間は、藤枝さんを探す時間と言っても過言ではない。つまり、退屈はしていない。むしろ楽しいと言える。


 だけど恋を自覚して、藤枝さんに話しかけることすら、緊張してできなくなった。


 ただ見かけるだけで満足できるレベル。


 幸せのレベルが、だいぶ下がったと思う。だけど不満はない。


 藤枝さんのクラスの前を通るとき、教室にいないか探したり。廊下を歩いていて、藤枝さんが向こうから歩いてこないか、変に期待したり。


 そうやってこそこそしていたのに、藤枝さんは俺を見つけると、俺のところに駆け寄ってくる。


 俺の気も知らないで、藤枝さんは無邪気に笑う。


 それだけで俺がどれだけ幸せになっているか、藤枝さんにはわからないだろう。


「なんだか久しぶりだね」
「そうだね」


 俺が話すことを避けていたからね。


「知り合ったばっかりなのに、数日会えなかっただけで寂しかったな」


 反応に困る。いや、内心かなり喜んでいるけども。それを素直に言うのは恥ずかしい。


 というか、この言葉でちょっと期待している自分がいる。


 藤枝さんも、俺と同じように思ってくれているような。
< 13 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop