嘘恋愛者
 俺の言葉に続くように言われたそれは、たしかに藤枝さんの声だった。俺は信じられなかった。


「もしかして……わざと夏輝に近付いたの?」


 俺が混乱している間に、蒼生が聞いた。知りたいけど、知りたくない。矛盾が生まれていた。


「近付いてきたのは、柿原君だよ? 私はなにもしてない」


 そうだ。俺があの日、藤枝さんに目をつけたのは、偶然だ。藤枝さんはただ俺とすれ違っただけ。


 俺がターゲットを決めるのは基本的に気分だし、藤枝さんがなにか仕掛けていたとは思えない。


「でも、あとはわざとかな」


 つまり、俺に笑いかけてくれたのも、クッキーをくれたもの、今駆け寄ってきてくれたのも、全部演技だったということか。


 その一言は、俺を絶望の沼に突き落とした。この絶望感を、俺の語彙力で正しく言い表すことはできない。


 それくらい、俺はショックだった。


 だけど、これが俺たちがしてきたことだ。藤枝さんに文句を言うことはできない。


「どうして、こんなことを……?」


 ただ、どうしても理由がわからなかった。


「柿原君たちは、綾乃を……私の友達を傷つけた。人が一生懸命勇気を振り絞って告白したのを、ゲームにして。お金を賭けて。人の気持ちで遊んでいたことが許せなかった」


 ここで藤枝さんは友達思いなんだ、なんて場違いなことは思わない。


 しかし一度ターゲットにした相手の友人であれば、俺は藤枝さんを見かけていたはずだ。それなのに、初めて見たのは、俺が声をかけたあの日だった。
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