嘘恋愛者
「ほら、同じ一年なわけだし、なんていうか、仲良くなりたいなって思って」


 へたくそか。今までのピエロ振りはどこに消えた。


 自分でもそう思うくらいなのだから、彼女が笑うのも無理ない。


 しかしその小さな笑い声も可愛い。


「私は二組の藤枝奏羽です」
「藤枝さん……」


 名前を教えてもらっただけなのに、頬が緩むのを止められない。


 しかし名前を知れた喜びに浸っている場合ではない。仲良くなりたいのは俺だけで、藤枝さんは俺のことなんかに興味はない。このままでは会話が続かず、藤枝さんをさらに困らせてしまう。なにか、話題を提供しなければ。


「かなはって、どういう字を書くの?」


 藤枝さんの情報が名前しかないから、これ以外の話題が思い浮かばなかった。


 藤枝さんが歩き始められるように、隣に立つ。


「奏でるに、羽だよ」


 俺の気遣いに気付くと、藤枝さんは歩き始めた。


 彼女の歩幅に合わせて歩くのは、嫌いじゃない。


「へえ、可愛いね」
「柿原君は? なつきって、どう書くの?」


 きっと、質問されたから同じことを返しただけ。そのはずなのに、少しでも俺に興味を持ってくれたような気がして、過剰に笑ってしまう。
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