翠玉の監察医 法のあり方
蘭はひどい状態の遺体を見ても、眉一つ動かすことはなかった。女性にそっと手を合わせた後、女性の体や現場を観察し始める。

「遺体の身元はわかってるのか?」

桜木刑事の問いに、警察官がメモ帳を広げて口を開く。

「待っていたかばんに免許証が入っていました。被害者は桜庭由美子(さくらばゆみこ)さん、三十七歳。ピアノ教室を開いているそうです」

「なるほど……」

凄惨な現場だというのに、冷静でいられる蘭や桜木刑事が圭介は信じられなかった。そして、どんな場所でも落ち着いているのがプロなのだと実感する。

「桜木刑事、よろしいでしょうか?」

現場に最初に到着した警察官などに話を聞いていた桜木刑事に蘭は声をかける。振り向いた桜木刑事に道路を見るよう蘭は言った。

「道路にタイヤ痕があります。古いものではありません。ついさっきできたものです。あの出血の量を考えて、被害者は交通事故に遭った可能性が高いと思われます」
< 10 / 29 >

この作品をシェア

pagetop