翠玉の監察医 法のあり方
「しかし、ここに加害者がいない。ということはひき逃げだね」

桜木刑事がそう言い、圭介は「最低じゃないですか!」と声を震わせる。もしも事故を起こしてすぐに救急車を呼べば、被害者の由美子は助かったかもしれないのだ。見殺しにされたことに対し、圭介は怒りを隠せない。

「遺体は安置所に運んでいただいてもよろしいですか?解剖にはご遺族の同意が必要ですので」

圭介の横で蘭は淡々と遺体と桜木刑事を見つめながら言う。桜木刑事は「わかっているよ」と頷き、他の警察官に遺体を運ぶよう頼んだ。

「蘭ちゃん、深森くん、来てくれてありがとう。俺たちは事故の目撃者がいないか探してみる」

「では、私と深森さんは安置所へ向かいます。ひき逃げは事件ですので、解剖の必要がありますから……」

蘭はペコリと桜木刑事に頭を下げ、未だに怒りをあらわにしている圭介の手を引く。そして別の警察官の運転する車で警視庁内にある安置所へ向かうことになった。
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