お見合いは未経験
「おい!何してるんだ!」
貴志が駆け寄る。
男は慌てて、真奈から飛び退いた。

「何も。ただ話してただけですよ。」
真奈は泣いてはいないが、目元が赤い。

「あのっ……私は相談出来ないので、担当者をご紹介しますと言ったのですが、ご了解頂けなくて……」
「榊原次長!」
成嶋が状況に気づいて出てきたようだ。

「こちらで、対応します。次長は小笠原さんを。」
貴志も、その男が気にはなったが、真奈が青ざめて小刻みに震えて、怖がっている事を考えると彼女を放って置くことなど出来なかった。

背後からは成嶋の、怒っている雰囲気をビリビリと感じるので、ここは任せても良いだろうと判断する。

今は、真奈だ。
おいで、と真奈の肩を抱いて、応接室に連れていった。

「大丈夫?何があったの?」
貴志はそっと、真奈に聞く。
「あ、あの方が私に個別相談出来るんだよね、とおっしゃって、私、はい、と答えて担当者に繋ぎますと言ったんです。そしたら、腕を掴まれてしまって、あんたでいいんだと、言われて…」

怖かった…と目を伏せている。
「真奈。ごめん。」
貴志はぎゅっと真奈を抱きしめた。
「貴志さんは、悪くないです!」
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