お見合いは未経験

「あいつ、ぶっ殺す。真奈をこんな目にあわせるなんて。いや、殺さなくていいか、むしろ、死にたいと思うくらいの目に.….」

低い声で言ったら、真奈には聞き取れなかったようで、
「え？」
と聞き返される。
貴志はそれに、にっこりと笑顔を向けた。
「なんでもない。真奈は気にしなくていいんだよ。大丈夫だった？」

「はい…」
「何事もなくてよかった。」
とても、愛おしい存在なのに。
この真奈に怖い思いをさせるとは、許しがたい。

だいたい何か、なんてあったらあいつ、マジで生きては帰れなかったからな。

「しばらく、ここにいて？」
「あ、でもお仕事が…。」
「大丈夫。僕から言っておくから。」

ね？と貴志が顔を覗き込むと、真奈はこくんと頷いた。
コンコンと応接がノックされる。
「葵です。」
ひょい、と葵がドアから顔を出した。
「ああ、ちょうど良かった。」

「あの、榊原次長、成嶋が…、」
「分かりました。今行きます。お願いしていいですか？」
「はい。」
その場を葵に任せて、貴志は応接の扉を閉める。

ふぅっと、大きく深呼吸した。
貴志は頭が冴えきっているのを感じた。