お見合いは未経験
貴志は成嶋が、今話をしているという部屋に向かう。
その扉の前に、書類を手にした柳田がいた。

「成嶋部長が中にいらっしゃいます。中の方の属性を確認してこいと言われました。次長に資料をお渡ししろ、と。」
「分かりました。今、見ます。」

柳田が手にしていた書類を貴志は受け取った。
今日、来ているのはそもそも、取り引き相手で顧客だ。
柳田は成嶋に頼まれて、出来る範囲で先程の男性の取引の情報を集めてきたようだ。

その、取り引きの中身を貴志は確認する。
柳田に指示を出して頼もうと思っていたが、先に成嶋が申し付けていてくれたようで、さすがだ、と思う。

その、取引の中身を見て、榊原は、ふっと笑った。
小者に限ってこういうことをする。

セミナーに声を掛けられるくらいなのだから、そこそこの金は持っているとは思われたが。

顧客として、なくしても惜しいという程ではないな。
それで損失云々という文句を言われたなら、自分がどこかから、客を引っ張ってきてもいい。

データを頭にいれつつ、部屋のドアをノックし、失礼します、と中に入る。
「だいたい、君、失礼だろ!こんなところに連れ込んで。」
男が立ち上がって、成嶋を怒鳴りつけていた。

「事情をお伺いしていただけです。」
成嶋が淡々と返している。

成嶋が目線を投げて寄越したので、貴志はそれに向かって頷いた。
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