お見合いは未経験
「ここで引くのがベストじゃないですか?まあ、ご判断はおまかせしますよ。でも、オレは正直、柿沼様が取引を引き上げるより、こいつの親族とか、彼女の親族怒らせた方が怖いって、銀行も分かってると思いますよ。」

「所詮、銀行の次長如きが。失礼する。」
柿沼は立ち上がって出て行った。

「…だって。ごとき、ってさ。そいつ何もん?」
「アパート経営者。」
「あらら、アパロン先か。融資してんの?」

アパロンはアパートローンだ。
融資先が、銀行の大事な取引先なのは充分承知だ。
土地持ちであることも多いため、銀行にとっては、大事な客先とも言える。

もちろん、だから今回も声をかけられたのだと思うが。

品性がないこと、この上ないな。
貴志は雑に髪をかきあげた。

「融資してますね。でも、あの年齢で、アパート経営って結局、無職と一緒だと思いますけどね。」
なんだって、相続セミナーなんかに来ているのか、と貴志は吐き捨てるように言う。

「自分の相続ではないのかもな。」
「あらかた、死にそうな親族がいるんじゃないですか?あういう手合いは誰か死ぬとなると、ハイエナみたいに食いつくそうとしますから。」
「お前、言うことが辛辣だね。」
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