お見合いは未経験
「で、いいお話しかな?」
「ご存知ですか?」
「いや、ごくごく、曖昧な噂。お前の口からきちんとした話が聞きたいかな。」

口当たりの良いワインと、見た目にも手の込んだ鮮やかな料理。
それを2人で摘む。

「縁談です。」
「おめでとう。で、お相手は?」
「小笠原真奈さんです。」

ふうん…と貴広は思案顔だ。
同じ経営者として、心当たりがあるのであろうと推察された。
「お前をお婿にやる気は僕はないんだが。」

「籍なんて、このご時世、どうでも良くないですか?」
「んー…。先方は乗り気だろう?」
「お話しは進んでいます。秋くらいに式を挙げたいと考えています。」

「お前に継がせたいのかな。」
「さあ?そんな話は聞いてないですよ。」

「選択肢が、あるな。人生の先輩として言うなら…どの道を選んでも、正直後悔はする。それを後悔なんて、してないもん、という顔で進んで行くのが男だろう。」
「すごい、アドバイスですね。」
「お前にだから正直に言うんだよ。」

いつも兄はそうだった。的確な時期に的確なアドバイスをくれる。
貴志が銀行に入行するのを迷っていた時も。
家のことは、僕に任せればいい、お前はやりたいことをやりなさい、と言ってくれたのだ。
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