お見合いは未経験

「じゃあ、真奈、私は帰りますけど、あなた、しっかりしなさいよ。」

ポンポン、と真奈の背を叩いて、母は帰っていった。

「驚いた？」
「はい。あの…」

「後でマンションに寄ってくれる？ちゃんとした引越しは今度でいいけど、部屋の感じとか見ておいて欲しいし。真奈?!」
気付いたら、涙がポロポロ零れていたのだ。

「あ…」
「勝手に決めてしまって、ごめんね。大丈夫だった？」
「ずっと、一緒にいていいんですね。」
「当然だよ。」

結婚するのだから、当然なのだろう。
でも、当然だ、とふわりと貴志に微笑まれて、とても、とても幸せな気持ちになる。

「実は、心細かったんです。お式の日は近付いて来るけど、やることはたくさんあるし、貴志さんもお忙しそうで、母も相談には乗ってくれますけど、どうしたら良いか分からないことも、たくさんあって…」
心細かった。
本当は。

今日だって、一緒にいて欲しかったし、他の日だって側にいたかった。

でも、迷惑を掛けたくなかったし、負担になるのが嫌で、言えなかった。

「ごめんね。今日からは家に帰ったら、ちゃんと聞いてあげられるから。」