お見合いは未経験
成嶋が連れて行ってくれたのは、個室の会席料理の店だった。

シンプルな看板にくぐり戸。
くぐり戸から玄関まで、飛び石と灯篭が配置されており、なかなかの雰囲気だ。

それだけで柳田は緊張しているようだった。
「あのー、榊原次長…なんだか敷居が高いんですけど…」
「そうでもねーぞ。見かけ程高くはない。お前、営業だろ?これくらいの店は知っておけよ。」
遠慮がちにそんな風に言う柳田に、成嶋は笑顔を向けた。
「はい…」

相変わらずだな、と榊原は笑みが漏れる。
成嶋は見込みのありそうな部下には、言葉を惜しまない。

確かに外観は敷居の高そうな会席風の店だが、店員は黒ベストに黒のロングエプロンで、レストランのようだ。

成嶋がドリンクのメニューに目を通している。
「会席ってより、創作料理に近い。だから、敷居はそんな高くないんだよ。」
それでも、個室を選択するところはさすがだと思う。

「泡もん…何度も頼むのめんどくせーな、スパークリングワインでいいか?」
それを泡もん、と言いますか…。

銘柄も店員に聞いてさくさくと決めた成嶋は、1杯目をかなりの勢いで飲む。
そうして、注ぎます、と言う柳田を断って、自分でボトルからグラスに注いでいた。

「で、どうだ?仕事は。」
スパーリングワインだが、成嶋の注ぎ方ではまるでビールのようだ。
成嶋の質問に榊原は答える。

「決裁が多いですね。」
「まあ、管理職だからな。少しは外出てんだろ?」
「いえ。ほとんど出てないですね。」
料理を摘みながら、話を始める。

うん。美味しいな。
料理は見た目にも洗練されていて、なかなかの店だ。
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