お見合いは未経験
「榊原ってさ、どこにいても絵になるな。」
いや、そっくり、その言葉返したい。

会席の店だろうと、裏通りのバーだろうと、どこにいても馴染んでしまう。

「成嶋さんは、どこでも物怖じしませんよね。」
「それはオレの特性。」

さて、と成嶋が居住まいを正す。
来るな、と思った。

「小笠原家はオレでも知ってる。うちの客だろ。」
「みたいですね。」

支社長も取引先、と言っていたし、真奈も、父がごり押しして、というようなことを言っていた。
支社が取引先なのだから、経営者のお嬢さんなのは最初から分かっている。

成嶋はみなまで口にはしないが、取引先のお嬢さんが、お相手で構わないのか?と聞いているのだ。

「本気なら止めないけど。結構な箱入りのはずだぞ。」
「ええ。」
箱入りだろうと、簡易包装だろうと、そういう事じゃないのだ。

成嶋は知らないから。

あの時の、あの見合いの時の…振り返った真奈の美しさを。
榊原の顔を真っ直ぐ見ることも出来ない、もの慣れない真奈の可愛らしさを。
ふとした仕草の品の良さを。

「なるほど、な。」
本当にこの人の察しのよさは腹が立つ以外の何ものでもないな。

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