お見合いは未経験
4.使い途を発見した
そうして、先日真奈と約束した金曜日が訪れた。

「今日は予定があるので、早めに出させてもらいます。」
次長の立場柄、取引先や他の上役との会食もあるので、榊原がそう言ったところで、誰も疑問には思わず、お疲れ様でしたぁ、と見送りされるだけだ。

待ち合わせは駅前の噴水の時計塔の下だ。

時間より、早めに到着してしまうのは営業マンの性だと貴志は思う。
逆に待たせることは考えない。
待つことも、苦痛ではない。

待ち合わせより、かなり早い時間に到着した貴志は、スマホで市場動向をチェックする。

一応、毎日、経済新聞には目を通しているが、それは本当に目を通しているだけで、営業をしていた頃の感覚とは全く違う。

それでいい、と思っていたが、帯同することを考えると、もう少し現場感覚を取り戻したい。
何とはなしに、スマホで見始めた、経済誌の特集が面白くて夢中になっていた。
スマホが5分前のリマインドを知らせる。

待ち合わせの時間だ。
これも営業時代からの習慣である。

胸ポケットに携帯をしまうと、小走りで走ってくる真奈の姿が目に入った。

今日はパウダーブルーのワンピース姿だ。
膝丈のフレアスカートがとても可愛い、が。
あんな、ヒールで…。

「真奈!走んないで。危ないから。」
思わず、貴志も駆け寄った。
ふわっと胸に受け止める。
貴志の腕の中で真奈は息を整えている。
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