お見合いは未経験
一目惚れ、したのだ。
むしろ、絶対に手放す気などない。
「貴志さんこそ、いいんですか?」
「どれだけ好きか、見せれるものなら見せたいよ。」

「あのっ…私、します!」
両手をぎゅっと胸の前で握ってなにやら、力の入っている真奈だ。

「は?」
何を?
「大丈夫です。分からないですけど。」
アレ…か?

「いや、無理でしょ。」
「大丈夫です。」

その、根拠に乏しい大丈夫を聞いて、行くやつはいないと思うが。

「真奈、君の良いところはその、一生懸命なところ。僕も好きだよ。でも、急に走ったらケガするよ。」
貴志も今日は少し関係を深めたかっただけで、野獣になる気はなかった。

しかし、真奈はいつになく真っ直ぐ見つめてくる。そのひたむきさが愛おしい、というのに。
貴志がくすりと笑うと、真奈は必死な顔で「でも、きっと貴志さんはケガなんてさせないと思うんです。」と言う。

「参った。その通りだな。」
貴志はくすっと笑う。

そして、眼鏡を外した。
その仕種だけで、真奈は緊張感を高めているのが、見て分かる。

実は、貴志の眼鏡にはほとんど度は入っていない。
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