お見合いは未経験
貴志が銀行に就職したころ、自分の整いすぎた顔立ちが、いろいろ誤解を生むことに気付いたからだ。

同性にはやっかみ。異性には標的。

むしろ、同性のやっかみの方が面倒だった。
どれだけ理を尽くしても、ま、アイツは顔で売れるから、で終わらせられる。

上司すら、そのように見ていた節があって、表立って何か言われることはなかったが、まともに仕事をもらえなかった時期もあったのだ。

かと言って、銀行員として、不衛生な髪型も出来ない。
素顔を隠す方法のひとつが眼鏡だった。

パソコンに向かいすぎて少しだけ、近視になったことも理由ではあるが、いちばんの目的は顔を晒さないことだ。

「どうなっても、知らないよ?」
貴志は真奈をベッドに押し倒し、その上になる。
足の間に膝を入れ、潰さないよう腕で身体を支えて、頬を撫でた。真奈はちゃんと貴志を見ている。

頑張るなぁ。
「真奈、唇噛み締めないで。」
「だって…」
「キスも出来ないでしょ。やっぱり、止める?」
「止めないで下さい!」
「ほら、キスさせて?」

本来なら面倒だと思うこんなやり取りすら、真奈相手なら許せてしまう。
キスしたら、真奈が幸せそうな顔になったし。

今度は深いキスをしてみる。
深く舌を絡めて舐めて、味わう。

柔らかい舌の感触が心地いい。
時折漏れる、真奈の吐息も。
「はっ…ん…」
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