お見合いは未経験
2.立てば芍薬、座れば牡丹…
もちろん、釣書もなにもあるわけもなく、榊原に届いたメールは、待ち合わせの日時を明記されたメールだけだ。

支社長にカジュアル、とは言われたものの、待ち合わせがホテルだったので、榊原はスーツを着て行く。

豪奢なロビーでも、見劣りしないのは、仕事柄もあるし、育ってきた環境もあるのだろう。
榊原の家では、ホテルでの飲食も多い。

「榊原次長!」
支社長が鷹揚に歩いてくるのが見える。

「支社長、おはようございます。」
榊原は微笑んで、挨拶した。

「いやー、君、やっぱり目立つねぇ。前の支店で軒並みマダム達がやられてたと聞いてたけど、納得だよ。」

いや、変な納得はやめて欲しい。

「恐れ入ります。」
榊原は薄らと微笑して、返した。
しかし、絶対に顔には出さない。
これは、ずっと榊原が決めていることだ。

「最上階のレストランを予約していて。あ、でも、すぐ失礼するから!」
「はい。」
じゃ、行こうか、と案内されたのは最上階のレストランの半個室だった。

こちらに背を向けて既に座っていたのは、着物姿の女性二人。

カジュアル?どこが?

確かに釣書などは省略されているが、これは明らかな見合いではないのだろうか。
どうやって断ろうか…

そんな事を考えていた榊原だったが、振袖姿のその女性が振り返った瞬間、その美貌に断る、と言う気持ちは全くなくなっていた。

日本人形みたいだ。
むしろ、日本人形より可愛くないか。
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