お見合いは未経験
父のことは嫌いではないし、尊敬もしているが、ワンマンで強引なことは否定出来ない。

「あなたが無茶ばかり言うから、お父様も先方にカジュアルにって、お申し出したのよ。だから、釣書も写真も、なしよ。とりあえず、お会いするだけ、会ってみなさい。」
そこまでされては、ノーとは言えない。

「はい…。」
待ち合わせだというホテルに、真奈は重い気持ちで向かった。

その日は良い天気で、真奈は窓から見える景色が綺麗だな、などと思っていた。

朝から着付けられた振袖は綺麗で、嬉しくもあったが、いかにも、な感じが少し恥ずかしい。

こちらになります、とレストランのフロアマネージャーの声がして、振り返る。

──え?!

お相手、と思われる男性は髪は柔らかくまとめられ、清潔感がある。
フレームレスの眼鏡をしているが、顔立ちは怜悧な美形。

涼しげな目元とすうっとした顔のライン。
優しい笑みのたたえられた口元は、やや唇が薄めだ。

綺麗に身体にフィットしているスーツのラインはおそらくはオーダーで、スタイルもとても良い。
そして、姿勢もとても綺麗なのだ。

好みのど真ん中だった。
それでも、断る、と決めていたから。

「小笠原様!お忙しいところ、恐れ入ります。こちらが榊原です。」
支社長のその大きな声は、真奈が苦手とするところだ。
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