お見合いは未経験
「榊原貴志です。」
対して、榊原と名乗ったそのお見合い相手は、当たりもソフトで声も柔らかい。

本当に、綺麗な人。
つい、ぼうっとその整った顔に見とれてしまう。

「小笠原真奈です。」
そう挨拶して、真奈は頭を下げる。
こんな美形で、しかもエリート銀行員ならば、引く手あまたの方だろう。

どうしよう。
こんなにステキな人とは思わなかったんです。

父がごり押しした結果ならば、どれだけ素敵でも、綺麗でも、好みでも断らなくてはいけない。
真奈は少し、悲しい気持ちになって、俯いてしまった。

──初恋が、失恋決定だったから。

こちらの榊原は将来有望で…などと、支社長が適当な紹介をしている。

「じゃ、ここで私達は失礼しますので、あとはどうぞお二人で。」
「では、榊原さん、失礼いたしますわね。お料理はお願いしてありますので、どうぞ楽しんでいって下さいね。」

えっ?!か、帰ってしまうんですか?

榊原から見えない位置で、母が小さく頑張りなさい、と言う。

うぅ…もう…。
「申し訳、ありません。」
「はい?」
返事をしながら、榊原が柔らかく、真奈の顔をのぞき込んでくる。

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