お見合いは未経験
「多分、父がすごく強引にお願いしたと思うんです。」
そう正直に言うと、榊原はふわっと微笑んだ。
見とれてしまうような、素敵な笑顔だ。

「大丈夫ですよ。カジュアルにと聞いていましたから、少し驚きましたけど。真奈さんはこういったお食事は、何度かされているんですか?」
「いえ…。初めてです。本当に今回、いいお相手なので、とすごく強引にされてしまって。ごめんなさい…」

せっかく時間を割いてくれたのに、お断りするつもりでは、真奈は頭を下げることしか出来ない。
申し訳なくて、しかも好み過ぎて、もう顔を見ることなどできなかった。

「謝らないで下さい。こちらでお食事された事はありますか?」
「はい。何度か…。母と。」

「じゃ、すごく美味しいのはご存知ですね。お酒は飲みますか?」
「いえ。余り頂けないんです。今日は…やめておきます。」

見合いの席で飲酒など、おそらくはそもそもマナー違反だろうし。
一応カジュアル、と言っているのだから、構わないのかもしれないが…いや、そういうことではない。

普段、人見知りする真奈は、相手と上手く話せなかったり、微妙に沈黙してしまったりすることもあるのだが、榊原相手には、そんな心配は必要なく、とても上手に話しを引き出してくれるのだ。

そんなところも、大人で素敵だな、と思う。
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