お見合いは未経験
「すごく綺麗なお着物ですね?」
「でも、この歳で振袖とか、嫌って言ったんですけど。」
「とても素敵です。お似合いですよ?」
「あ、りがとうございます…」

お世辞ではない、綺麗、という褒め言葉をこんなに嬉しく感じることはない。
「今、お勤めはされてるんですか?」
「はい。」
「どちらに?」

釣書がないもの。そうよね。
どうやら何も知らされていないらしい。
「えっと、銀行です。」

驚いた様子の榊原に、慌てて真奈は言った。
「あのっ、でも、榊原さんのところじゃないです。信託銀行なんです。そこで事務アシスタントをしています。」
「僕の勤め先のことはご存知なんですね。」
「はい。父から聞いて。」

こちらにはある程度情報があるのに、相手は全くこちらのことは知らされていないらしい。

「本当にごめんなさい。」
「真奈さん。」
「はい…」

「謝る必要はないんですよ。僕も充分理解して、来ていますから。それより、せっかくですから、お食事頂きませんか?」
「はい。」

確かにそうだ。せっかくなのだから、ご用意されたお食事はいただこう。
例え、このお見合いを断るにしても。
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