お見合いは未経験
食事を終えて、席を立つころになったら、榊原は真奈の椅子を引きにきてくれた。

気遣いが嬉しい。
「ありがとうございます。」
本当に仕草のひとつひとつにまで、どきどきしてしまう。

「真奈さん、もし差し支えなければ腕をどうぞ。足元が歩きにくいでしょうから、よろしければ。」
でも、きっと義理で来ているだけなのだから、お断りしなくては。

腕を差し出されても!

でも、先程から、榊原はずっと優しくて、包み込むように真奈を見てくれて、真奈は断らなくてはいけない、と分かってはいるものの、辛くて仕方がなかった。

榊原のエスコートで庭に向かった。
春先の庭は思う様に花が咲き乱れるという感じで、なおかつ手入れも行き届いており、とても綺麗だ。

「本当。お庭もすごく素敵なんですね。」
「真奈さん。」
「はい。」
「僕は今回このお話、進めたいと思っています。あなたはいかがですか?」

え!?義理じゃないんでしょうか…。

断ろうと思っていた気持ちは確かに、その瞬間大きく揺らいだ。
そして、
「榊原さんさえ、よろしければ。」

気付いたら、真奈はそう返事していた。

「貴志、です。僕の名前。」
名前…。名前で呼んでいい、と言うことだろうか。
断らなくていい?
そう、先程、榊原さんさえ良ければ、と言った。
その回答がこれなの?

「貴志さん…。」
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