ダイヤの王様
「由香里、トランプしようぜ」
ふいに訪ねてきた彼が、懐かしい小箱を私に見せた。
子どもの頃、マンガ雑誌の付録についてきたトランプのカードだった。一緒に遊んで、角がすり切れるまで使い込んだ、54枚のカード。
「引越しの準備をしてたら、引き出しの奥から出てきたんだ。最後に、お前と勝負しようと思って」
最後に――
明日の朝、彼は旅立つのだ。ずきりと、胸が痛んだ。
とうとう離れ離れになる。この気持ちを伝えることもせず、ただそばにいるだけだった18年が、胸に重く圧し掛かってくる。
「……いいね、勝負しよう」
いつものように二階の子供部屋に上がり、私たちは向かい合う。
「ババヌキか、それとも七並べか」
あぐらを掻いてカードを切る彼の仕種は、子どもの頃と変わらない。
でも、いつの間にか、子供部屋が狭く感じるほどの体格になっている。気付かぬ振りでいた、厳然たる事実。
ふいに訪ねてきた彼が、懐かしい小箱を私に見せた。
子どもの頃、マンガ雑誌の付録についてきたトランプのカードだった。一緒に遊んで、角がすり切れるまで使い込んだ、54枚のカード。
「引越しの準備をしてたら、引き出しの奥から出てきたんだ。最後に、お前と勝負しようと思って」
最後に――
明日の朝、彼は旅立つのだ。ずきりと、胸が痛んだ。
とうとう離れ離れになる。この気持ちを伝えることもせず、ただそばにいるだけだった18年が、胸に重く圧し掛かってくる。
「……いいね、勝負しよう」
いつものように二階の子供部屋に上がり、私たちは向かい合う。
「ババヌキか、それとも七並べか」
あぐらを掻いてカードを切る彼の仕種は、子どもの頃と変わらない。
でも、いつの間にか、子供部屋が狭く感じるほどの体格になっている。気付かぬ振りでいた、厳然たる事実。