ダイヤの王様
自信がないのは私だった。

彼から手を離し、その代わりにカードをぎゅっと握りしめる。

「待てない」

「どうして」

「待ちたくない!」

きっと無理。

彼は東京に暮らし、私とは違う世界に馴染み、いずれ他の誰かを見つけるに違いない。

傷つくのは嫌だった。

とうとう彼は横を向いた。

諦めたのか、怒ったのか、取り付く島もない頑なな横顔に後悔がよぎるが、私は動けなかった。

「分かった、もういい」

トランプを片付け始める彼を、呆然と見やった。

あっという間にカードを集める手際のよさは、子どもの頃とは違う。大きな手は器用で、生真面目で、男のプライドが宿っている。

何もかもが、遅すぎたのだ。


彼は子供部屋を出て行き、私は座り込んだまま、開放されたドアに絶望を感じる。あまりにもあっけない、18年の幕切れだった。

手の平に残されたのは、ダイヤのキング。

プライドと寂しさと、言いようのない表情を宿した王様の横顔は、彼そのものだった。
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