【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
護孝side見合い四週間前
 TOKAIヒルズガーデンの総合プロデューサー、アンディ・ミレン氏が、自分の提出した事業計画書に目を落とすと、眉をひそかにしかめた。

 瞬間、俺はミレン氏にオファーを断られるのがわかった。
 はたして。

「ミスター隠岐《おき》、非常に魅力的な提案です。このプロジェクトの始動が五年後であれば、私は手を貸すことが出来たでしょう」

「五年……」

 失望の声が思わず口から漏れでる。

 手掛けている途中で完成していないならともかく、着手自体がそんな先では祖母の刻はとまってしまうかもしれない。

 かといって、目の前の人物は売れっ子造園師。
 数年先まで予定が埋まっていたのは計算外だったが、なにより信義を重んじる人物。

 隠岐家が所有している、権力や金を行使しても半年後からの着手について、うんとは言わないだろう。

 仕方ない。
 ここでぐだぐだ言っても始まらない。
 与えられたプレゼン時間を十分に活かせなかった俺の失策。
 魅力を感じても断らざるをえないミレン氏の多忙さ、生真面目さを計算していなかった、俺の落ち度。

「残念です」

 俺達は握手を交わした。
 さてはどうしようか。
 慎吾に別のガーデナーをリストアップしてもらわねば。

「TOKAIヒルズの屋上庭園を手掛けられた貴方に是非、我がプロジェクトに携わって頂きたかったのですが」

 最後のもう一押しをしてみる。

 俺の表情から真実惜しんでいるのがわかったのだろう、返ってきた声は温かかった。

「ご存知でしょうが、ここ、TOKAIヒルズショッピングモールは『日本の古き良き文化を全世界に発信する』がテーマとなっています」

「ええ」
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