【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
掌中の妖精、本人は自覚なし
　護孝さんからの依頼で私は、朝と夜は庭の手入れ。　
　日中は隠岐の杜のツアーガイドを兼任することになった。

「……の前に、外国語ー！」

　ううう。

『多賀見の子女は英語とドイツ語を学ぶべし』

　という家訓を守るべきだったよ……。

「一番重要な『薬学あるいは経営を修めるべし』は多賀見に穣ちゃんがいたから免除してもらったけど。『芸は身を助ける』って真理だった……」

　穣とは玲奈ちゃんのお兄さんで、私の従兄。
　多賀見製薬のアメリカ支社で働いている。

　そうだよね。優秀な従兄妹がいても、私が優秀だってことにはならないのだ。
　しゅん。

　と、落ち込むのはここまで。
　まずは英語をマスターし、ついで別邸についてどんな質問に答えられるように勉強を始めた。

　予想外だったのは着物でという要望だったこと。
　てっきり普通のネイチャーガイドのようなアウトドアな格好をしようかと思っていた。

『外国人は着物美人に弱いから、スペルミスも聞き逃してもらえますよ』

　慎吾さんに言われてはその気になったらなぜか、護孝さんだけが猛反対。
　多賀見からも隠岐からも『着せたい物がある！』と女性陣からはワクワクな反応だったし。
　父や伯父様、隠岐のお義父様もニコニコ。

　多賀見のお祖母様から護孝さんは『余裕のない男は女を逃しますよ』と言われてしまった。

　着付けは元々出来るし、隠岐の杜の庭については父よりも誰よりも詳しい。

　私が出来ることをして、隠岐家の人達や渡会に認めてもらうんだ。

　ふんす！と鼻息荒くして言ったら、ようやく護孝さんが折れてくれた、

　……別に隠岐や渡会の方々に面と向かってなにか言われるわけではない。
　けれど、貴賤というものは差別する側に純然と存在する。

　私とは違う日本語体系の人達なんだからと思うしかないんだけど。
　護孝さんに私と結婚したことを後悔してほしくない。お買い得だったと、一生思っていて欲しい。

「……護孝さんを喜ばせたい」

　私を微笑んで見つめてくれる彼を見ていると頑張らなくちゃ、て思う。
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