【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「隠岐夫妻は一九二五年に日本で結婚式を挙げたあと、横浜から船でシンガポールを目指しました」

 レッスンの甲斐あり、あぶなげなく英語で参観客に説明出来てると信じてる。

 でも、話しかけてくれるときと質問には、難しいセンテンスは使わないでー! あと、英語で! とは毎日祈っている。

 ツアーには必ず警備員が同行している。
 事件があったので警備が厳重なのだろうと、VIP達には好意的に受け止められている。

 今日は玲奈ちゃんが授業(?)参観してくれている。
 他の見学者達が迎賓館でのお食事に向かったすきに近寄ってきてささやいた。

「……ひかるちゃん、この杜に隠されちゃったね」
「え? 玲奈ちゃん、なにか言った?」

 ニヤリと笑われて、そのあとにっこりされた。
 
「ううん。初めて隠岐の杜ツアーに参加したけど、面白いなって」

 ふふ。
 お仕事には厳しい玲奈ちゃんに褒められたー!

「ゆっくりしていってね」
「はーい」

 玲奈ちゃんに手を振れば笑顔で答えてくれた。
 見学客が帰り閉門時間になると、ようやく肩の力を抜くことが出来る。

「ひかる様、お疲れ様でございました」

 運転手が迎えにきてくれた。
 窓の外を眺めれば、自分の顔が映っている。
 最近、自宅で出来るスキンケアやストレッチを玲奈ちゃんに教えてもらったから、お肌しっとりしている。

 自宅にいれば当然のように求められるのだけど、私の肌や髪を嬉しそうに触れてきて、気持ち良さそうな顔をしている護孝さんを見るのが、とっても幸せ。
 もうじき、大好きな旦那様と会える。

「護孝さん……」
「ひかる様?」 

 運転手さんに聞き咎められてしまい、なんとか誤魔化す。

「さー、ごはんの支度! 今日はなにしにしようかなー」

 私の呟きに運転手さんが反応してくれる。

「スーパーに寄っていかれますか?」

 是非!と答えた。

「えっと、冷蔵庫の中身は……」

 メモ帳を開く。
 帰宅してから冷蔵庫を開けて、ある食材でぱぱっと料理するなんて、無理。
 毎日、出勤する前に食材を確かめてメモしているのだ。

 今日は適当飯。
 切って炒めて混ぜるだけしか出来ないから、今日「も」なんだけど。

 スーパーでも、運転手さんが当然のようにカゴを持ってくださる。
 遠慮したんだけど、『ひかる様の荷物をお運びし、玄関までお届けするまでが、わたくしの仕事でございます』って言われてしまった。 

 ううう、仕事を増やしてすみません……。

 今日は沢山あったので、キッチンまで荷物を運んでもらってしまった。

 手洗いうがいをして、着物を脱ぐ。
 衣紋掛けにかけて、汚れがないか確認。
 半衿を解いて芯を取り出す。
 毎日やってるから、慣れてきた。

 洋服に着替えて、エプロンをつける。

「適当とは、ほんとはいい言葉なんだもーん」

 なんて言い訳しながら作っていると、護孝さんの帰宅時間になった。
 かちゃり。

「あ、護孝さん。お帰りなさい!」

 私、バーチャル猫の耳がぴんと立ち、ぱたぱたと廊下を玄関に向かった。

「ひかる、ただいま」

 私の旦那様、かっこいい。見惚れていると、キスが降ってきた。

「ん、護孝さん……」
「ひかるが食べたい」

 ささやかれるなり、ぐんと持ち上げられた。

「えっ」

 ベッドに連行されマシタ。
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