【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 苔が柔らかく起伏を覆っている。
 中央には二〇cmほどの低木を三本植え、一mほどの樹木で左右から囲むようになっており、優しい雰囲気である。

 人目を惹くのが借景。

 呉服店の前に作られている坪庭は、店内とはガラスで仕切られており、色目鮮やかな着物が衣紋掛けに広げられている。

 手前には白い石が敷き詰められており、盆に載せられて茶器が飾られていた。

 タイトルには『野点』とつけられている。

 ショッピングモールの主客である女性向けの憎い演出に、祖母の庭に合うのではないかと思った。

「慎吾、これは誰だ?」

 訊ねると、マウスのクリック音が聞こえて、答えが返ってくる。

「『光』と記載あるな。ひかり、ひかる、みつ、こう……読み仮名の記載はない。国籍も性別も不明」
 
 慎吾が調べた情報は本来、部外者には取得出来ない情報だ。
 しかし俺はTOKAIヒルズ全体を所有している、渡会(わたらい)家出身の祖母を持つ。

 渡会の祖母と隠岐の祖父の婚姻により、隠岐は渡会の分家扱いとなった。

『本家』における俺の評価は高く、大叔父の総帥からは外孫に等しい扱いを受けているから、坪庭の製作者の情報の入手くらい朝飯前。

 屋上庭園を手掛けた人物も、それを知っていたのだろう。

「さすが、ミレン氏。目端の効く御仁だな」
「ああ」

 かえすがえすも残念。
 しかし、なにが幸いするかわからない。
 コネは作ってこそ。
 まったく権力万歳だ。
< 13 / 125 >

この作品をシェア

pagetop